2020年7月2日の火球の軌道の推定

2020年7月2日2時20分すぎに、関東地方で火球の観測報告がありました。 (参考 SonotaCo Network Japan, KAGAYASTUDIO Movie) 我々は地震計のデータを利用して、音波が地上に到達した時刻を調べ、火球の軌道を推定しました。 飛行経路の推定には、火球が進行しながら信号を発信したとする線震源モデルを仮定しました。

隕石は神奈川県西部から東京湾を横切るようにほぼ真西から真東へ進行し、 軌道を延長して地上と交差したとすると、交差点は千葉市の辺りになります。 神奈川県西側を中心に南北に広がる地域で衝撃波がはっきりと観測されており、 関東平野の中では衝撃波は観測されなくなっています。

このように地震計で飛行経路を推定した例は、1987年9月11日広島の隕石(長沢・三浦、1987 BERI)や1998年3月30日宮城の隕石(Ishihara et al, 2003 EPS)、2010年8月7日琵琶湖の隕石 (Yamada and Mori, 2012 EPS)、 2013年1月20日関東地方の隕石2013年2月15日のロシアの隕石 などがあります。また、スペースシャトルの飛行経路も地震計によって推定されています(Kanamori et al., 1991 Nature)。



図1 地震計に記録された衝撃波の到達時刻(2時30分からの秒数)




図2 線震源モデルを用いて推定した衝撃波の到達時刻
(背景の色が衝撃波の到達時刻を最もよく説明するモデル)。
隕石の軌道を延長して地表と交差したとすると、交差点は北緯35.59度、東経140.09度(星印)。
地表と軌道の間の仰角は52度、軌道の方位角は266度(ほぼ真西から真東へ移動)。
神奈川県西側のあたりで衝撃波はっきりと観測されているため、
隕石が高度60-80qのあたりで衝撃波が大きく生成されたと考えられる。



図3 交差点からの距離の順で並べた地震波形。200秒から400秒にかけて、音速で伝わる信号が見られる。赤印が観測された衝撃波到達時刻、青印が線震源モデルから推定される到達時刻。(時刻は2時30分からの秒数)



参考文献:

Yamada, M. and J. Mori (2015). Seismic Observations of the Sonic Boom Produced by the Chebarkul Meteorite. 京都大学防災研究所年報, pp.47-52. pdf

Yamada, M. and J. Mori (2012). Trajectory of the August 7, 2010 Biwako Fireball Determined from Seismic Recordings. Earth, Planet and Space, Vol.64-1, pp.27-35. pdf

Ishihara, Y, Tsukada, S, Sakai, S, Hiramatsu, Y, and Furumoto, M. The 1988 Miyako fireball's trajectory determined from shock wave records of a dense seismic array. EPS 55, 2003

Ishihara, Y, Furumoto, M, Sakai, S., and Tsukada, S. The 2003 Kanto large bolide's trajectory determined from shockwaves recorded by a seismic network and images taken by a video camera. Geophysical Research Letters 31(14):L14702, 2004

Kanamori, H., J. Mori, D. Anderson, T. Heaton, Seismic Excitation by the Space Shuttle Columbia Nature, 349, 781-782, 1991.

Mori, J. and H. Kanamori, Estimating trajectories of supersonic objects using arrival times of sonic booms, U.S. Geological Survey Open-File Report 91-48, 15 p., 1991.

長沢工, 三浦勝美, 地震計記録から決定した 1987 年 9 月 11 日の大火球の径路. 東京大学地震研究所彙報. 第62冊第4号, pp. 579-588, 1988


謝辞:
本研究では、防災科学技術研究所、気象庁、全国の大学の地震観測ネットワークによって記録されたデータを利用しました。


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