2010年8月7日の隕石の軌道の推定

2010年8月7日17時すぎに、東海地方を中心に爆発音と地震のような振動がありました。 この爆発音は、物体が音速を超えて飛行した際に、衝撃波が地上に伝播して発生したソニックブームと考えられます。

我々は地震計のデータを利用して、音波が地上に到達した時刻を調べ、物体の飛行経路を推定しました。 その結果、物体は伊勢湾から琵琶湖の方向(西北西)に向かって進行し、落下の角度は約45度、落下時刻は17時2分すぎと推定されます。 火球の目撃情報も多数ありますので、隕石が落下したのではと考えられます。

一般に、単一の物体が飛行した場合には、はっきりとしたパルス波が記録されます。 しかし、今回の記録には複数の衝撃が記録されており、隕石が分割したりして複数落ちてきた可能性も考えられます。

このように地震計で飛行経路を推定した例は、1987年9月11日広島の隕石(長沢・三浦、1987 BERI)や1998年3月30日宮城の隕石(Ishihara et al, 2003 EPS)、2003年6月16日関東平野の隕石(Ishihara et al, 2004 GRL)などがあります。また、スペースシャトルの飛行経路も地震計によって推定されています(Kanamori et al., 1991 Nature)。

追記(2011年3月1日) 解析結果を修正しました。



図1 地震計の記録から推定した隕石の飛行経路。小円の色が観測された到達時刻、背景の色が計算された衝撃波の到達時刻



図2 京都大学上賀茂地学観測所で観測された地震波形。複数のパルスが確認できる



図3 衝撃音を観測した範囲(推定)



図4 各市町村の人口分布




追記(2011年3月1日)
新しいデータを追加し、推定した軌道を修正しました。

地震計の観測記録から算出した信号の到達時刻がほぼ同心円状のコンターとなることから、 火球が空中で消滅した可能性が高いと判断し、火球が直線運動で落下して、ある地点で消滅するモデルで軌道推定を行いました。

その結果、火球の消滅位置は、琵琶湖の東岸、上空25kmあたりとした時に、最も良くデータを説明できます。消滅位置の信頼区間は2-3kmです。
入射角は50-60度と比較的高角度で推定されていますが、消滅位置に比べると信頼性は高くありません。



図5 地震計の観測記録から算出した信号の到達時刻(小円)と、モデルから推定した信号の到達時刻(背景色)。 ほぼ同心円状のコンターは、火球が空中で消滅した時に見られる特徴である。(単位:秒)



図6 波形の例。適切なフィルタ処理をすることにより、よりはっきりと信号を抽出することができる。



図7 最も早く信号が到達した地点から、距離の順に波形を並べたもの。みかけ速度0.36km/s程度で信号が伝達している様子が分かる。地震波の場合は、みかけ速度が5-6km/sであり、信号が地中からではなく、地上から到達したことが分かる。




参考文献:

Ishihara, Y, Tsukada, S, Sakai, S, Hiramatsu, Y, and Furumoto, M. The 1988 Miyako fireball’s trajectory determined from shock wave records of a dense seismic array. EPS 55, 2003

Ishihara, Y, Furumoto, M, Shin'ichi Sakai, ST. The 2003 Kanto large bolide's trajectory determined from shockwaves recorded by a seismic network and images taken by a video camera. Geophysical Research Letters 31(14):L14702, 2004

Kanamori, H., J. Mori, D. Anderson, T. Heaton, Seismic Excitation by the Space Shuttle Columbia Nature, 349, 781-782, 1991.

Mori, J. and H. Kanamori, Estimating trajectories of supersonic objects using arrival times of sonic booms, U.S. Geological Survey Open-File Report 91-48, 15 p., 1991.

長沢工; 三浦勝美 地震計記録から決定した 1987 年 9 月 11 日の大火球の径路. 東京大学地震研究所彙報. 第62冊第4号, pp. 579-588, 1988


謝辞:
本研究では、防災科学技術研究所、気象庁、全国の大学の地震観測ネットワークによって記録されたデータを利用しました。


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