2023年10月9日の鳥島近海の津波の解析

2023年10月9日午前6時40分、気象庁は伊豆諸島と小笠原諸島に津波注意報を発表しました。 これは、午前6時25分に八丈島八重根で40センチの津波が観測されたことによるものです。 しかしながら、津波の震源となるような地震は観測されず、規模や位置は不明なままでした。

我々は地震計、海底水圧計のデータを分析し、津波の原因となる現象を検討しました。 地震波形には、地中を伝わる表面波と、海中を伝わる波が観測されていることが分かりました。

表面波の最大振幅を記録した時刻から震源を推定した結果、伊豆諸島の最南端に位置する孀婦岩(そうふいわ)のあたりにあることが分かりました(図1、図2)。震源周辺の地震活動は、10月1日から活発になってきていました(図3)。

図4に示すように、長周期の信号は午前5時ぐらいから間欠的に徐々に大きくなり、午前6時半ごろ最大振幅に達した後、急に収まっていることが確認できました。短周期の信号は、午前4時から午前6時半ごろまで14回にわたってパルス状に記録されていました(図5)。この信号は速度が遅いことから、P波やS波ではなく、海中を伝わるT波と考えられます。

この信号は、はっきりしたP波やS波が見えないことから、通常の地震ではありません。周辺の地震活動が活発化していたこと、長周期の信号が間欠的に徐々に大きくなっていることから、津波の原因は火山活動に伴う地殻変動あるいは地すべりではないかと推定しています。

(文責:山田真澄)



図1 表面波の最大振幅から推定した震源の場所と地震波形(20-100s)。



図2 海底地形図と震源位置(海上保安庁 海底火山データベースに加筆)。孀婦岩の近辺に求められた。



図3 M-T図。震源周辺の地震活動は、10月1日から活発になってきている。



図4 F-net広帯域地震計の波形(10-200s)。午前5時から午前6時半ごろまでシグナルが確認できる。気象庁の八丈島の験潮記録を加筆した。



図5 F-net広帯域地震計の波形(0.125-0.5s)。午前4時から午前6時半ごろまで14回のパルス状の信号が確認できる。1つの信号の継続時間は1-2分。この信号は速度が遅いことから、海中を伝わるT相と考えられる。



図6 F-net広帯域地震計(青ヶ島観測点)の波形(上:20-100s、下:0.125-0.5s)



参考文献:

気象庁:令和5年10月9日05時25分頃の鳥島近海の地震について https://www.jma.go.jp/jma/press/2310/05a/kaisetsu202310051205.pdf

気象庁:令和5年10月9日05時25分頃の鳥島近海の地震について(第2報) https://www.jma.go.jp/jma/press/2310/09a/kaisetsu202310090840.pdf

気象庁:令和5年9月の地震活動及び火山活動について 関東・中部地方の主な地震活動 https://www.jma.go.jp/jma/press/2310/10a/2309kanto-chubu.pdf

USGS: M 4.6 - Izu Islands, Japan region https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000leml/executive

USGS: M 5.4 - Izu Islands, Japan region https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000le3k/executive

地震調査委員会: 鳥島近海の地震活動の評価 https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2023/2023_torishima.pdf


謝辞:
本研究では、防災科学技術研究所のS-net、F-net、DONETのデータを利用しました。ここに記して謝意を表します。


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