2023年1月19日15時過ぎ、滋賀県守山・草津付近で原因のわからない爆発音の観測報告がありました（参考　Yahoo news）。 我々は、爆発音が聞こえた範囲と、地震計のデータに記録されている爆発音の信号を調べました。

証言の分析：図1に示すように、爆発音が聞こえた範囲は、琵琶湖の南西側、草津市から守山市、野洲市にかけて、西南西から東北東の方角に幅2-3kmの帯状に広がっています。Twitterの分析から、最も早いツイートは15時3分10秒であることが分かりました。このことから、音が聞こえた時刻は15時3分ぐらいであると推定されます。

地震波形の分析：証言のあった場所を中心として、半径60kmぐらいの地域の地震波形記録を調べました。その結果、図2に赤い三角印で示された4つの観測点（多賀から宇賀渓のエリア）で、爆発音と関係すると思われる信号が見つかりました。琵琶湖湖岸から多賀方面の間には地震計がないため、おそらく黒い点線の範囲に信号が到達したと推定されます。

図3に4つの観測点の上下動成分の速度波形を示します。この信号の見かけ速度は0.35km/sと、音速とほぼ一致します。このことから、信号が地中ではなく空中を伝わってきたことが分かります。また、草津市を震源と仮定すると、震源時刻は15時2分50秒であることが分かりました。

原因の推定：爆発音の証言と地震波形の分析から、この爆発音が15時3分頃に発生し、空中を伝わって東北東の方向へ伝播したことが分かりました。このような信号を出す物体として、火球や音速を超えて飛行する戦闘機などが考えられます。今回のイベントの原因として、市街地上空で戦闘機が音速を超えて飛行するとは考えにくいことから、火球の可能性が高いと考えています。

過去の火球との比較：一般的に、火球の爆発音は広い範囲で観測される事が多いです。しかしながら、軌道や高度によっては、帯状の狭い範囲で観測されることもあります。 2016年12月20日に長野県で観測された火球の信号は、図4に示すように帯状の細長い地域で観測されました。図5に今回のイベントと2016年12月20日の長野県の火球の地震波形記録を比較しています。

追記(1/27)：爆発音が観測された当時、戦闘機が飛行していたという事実が公表されました (NHK NEWS WEB)。地震計のデータは数が少なかったので、信号を出した物体の速度や経路を推定することはできません。また、地震波形記録単体から、戦闘機と火球を区別することは難しく、どちらかの可能性を否定することはできません。

参考文献：

Yamada, M. (2021). Determining the source of the explosive sound heard in Hokkaido, Japan, on 26 April 2021. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 126, e2021JB023076. https://doi.org/10.1029/2021JB023076 pdf

Yamada, M. and J. Mori (2012). Trajectory of the August 7, 2010 Biwako Fireball Determined from Seismic Recordings. Earth, Planet and Space, Vol.64-1, pp.27-35. pdf

長沢工, 三浦勝美, 地震計記録から決定した 1987 年 9 月 11 日の大火球の径路. 東京大学地震研究所彙報. 第62冊第4号, pp. 579-588, 1988

謝辞：
本研究では、防災科学技術研究所、気象庁、全国の大学（名古屋大学）の地震観測ネットワークによって記録されたデータを利用しました。また、草津市役所、守山市役所、野洲市役所、守山警察署、草津警察署、湖南広域消防局の方には爆発音の証言の情報を提供していただきました。心より御礼申し上げます。