2014年7月9日南木曽の土砂崩れの発生時刻推定

2014年7月9日17時40分頃、台風8号がもたらした大雨により、長野県木曽郡南木曽町で大規模な土石流が発生しました。本災害により亡くなられた方のご冥福お祈りし、被災された多数の方々にお見舞いを申し上げます。

我々は高感度地震観測網計(Hi-net)の傾斜計データを利用して、土石流の通過時刻を推定しました。傾斜計の位置を図1に示します。土石流の発生した沢と木曽川の合流地点に近く、沢からの直線距離は数十メートルという近距離に設置されていました。 図2は、東西成分の周波数ランニングスペクトルを示しています。左右の図はスペクトルのスケールを変えてあります。 振幅が大きくなる時間帯には、2Hz以上の高周波の成分と、低周波の成分が顕著に含まれていることが分かります。

それぞれの周波数成分を詳細に解析するため、高周波の成分を抜き出したものを図3(上)に、低周波の成分の抜き出したものを図3(下)に示します。 図3にみられるように、特に大きな振幅が17時43分00秒と17時45分50秒頃に見られます。この2つのパルスは高周波成分、低周波成分ともに確認できます。低周波成分の波形が、このパルスの前後を境にして急激に傾きが変化していることから、この2つの時刻にかなり大きなボリュームが傾斜計の位置を通過したと考えられます。

図3の波形の前半を拡大したものを図4に示します。 高周波成分(上)は、17時38分頃から大きくなり始めます。また、低周波成分(下)は17時40分20秒頃から単調増加し始めます。傾斜計より420mほど東側に国土交通省が設置した監視カメラがあり、このカメラを土石流が通過したのは17時41分20秒頃と推定されています。(参考 平成26年台風第8号南木曽町土砂災害概要)。低周波成分は運動する物体の体積との相関が良いことから(例えば、参考文献1)、メインの土石流は17時40分20秒頃開始し、それ以前の高周波の信号は前駆的な現象をとらえていると推測されます。



図1 梨子沢周辺の地図と傾斜計の位置(△印)(中部地方整備局の地図に加筆)



図2 傾斜計の東西成分の周波数ランニングスペクトル。左は0-10Hz, 右は0-2Hzの周波数領域を示す。



図3 17時から18時20分までの傾斜計の記録。上が高周波成分で下が低周波成分。特に大きな振幅が17時43分00秒と17時45分50秒頃に確認できる。
図4 図3を時間軸方向に拡大したもの。高周波成分の立ち上がりは17時38分頃、低周波成分の立ち上がりは17時40分20秒頃。

参考文献:

1) Yamada, M., H. Kumagai, Y. Matsushi, and T. Matsuzawa (2013). Dynamic Landslide Processes Revealed by Broadband Seismic Records, Geophysical Research Letters, doi:10.1002/grl.50437.

2) 防災研究所 突発災害調査報告 『2014年7月9日長野県木曽郡南木曽町における土石流について』 http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/web_j/saigai/disaster_report.html


謝辞:
本研究では、防災科学技術研究所によって記録されたデータを利用しました。また、本研究の成果は防災科学技術研究所との共同研究によるものです。


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