2017年9月3日の北朝鮮の人工地震の震源推定

2017年9月3日12時30分頃、北朝鮮付近を震源とする地震波を観測したという報告が気象庁からありました。 (第1報, 第2報 ) 我々はF-netの広帯域の地震計記録を利用して、震源位置を固定し波形インバージョンを行いました。用いた周波数帯は0.02-0.08Hzです。図1に観測点の分布を示します。

図2に震源時間関数を示します。表面波のインバージョンから求められたモーメントマグニチュードは4.9と推定されます。2013年、2016年のイベントと比較すると、振幅は10倍程度、モーメントマグニチュードは0.7-0.8大きくなっています。震源時間は非常に短いと想定され、震源時間関数はどのイベントでもほぼ同じ波形となっています。

図4に広帯域地震計の周期20-50秒の上下動波形を示します。表面波の波群が12時30分ごろと、12時38分30秒ごろに見られます。12時30分の波形はP波が卓越しS波が不明瞭であることから、爆発的なイベント、12時38分30秒の波形は上下動が卓越していることから、上下方向の崩落のイベントと考えられます。崩落の規模は10^10kg程度(東京ドーム3杯分)と予想されます(Ekstrom and Sterk, 2013の経験式より)。

図5には図4の波形の短周期成分(0.2-0.5秒)を示します。短周期の波形では、1つ目のイベントのS波はほとんど見られず、2つ目のイベントは最も近い観測点でS波がはっきりと確認できます。また地震波が海中を伝わってくるT波と呼ばれる波が東北地方で確認できます。

図6にHi-net観測点の振幅を示します。左側のP波では中国地方、東北地方で特に大きな振幅を観測しているのに対し、右側のT波は北海道南部から東北地方にかけて大きな振幅が見られます。これは、震源から東北地方にかけて深さ3000m程度の日本海盆が広がっており、T波が伝わりやすいためです(図7参照)。





図1 解析に使用したF-netの地震計の位置



図2 インバージョン解析で求めた震源時間関数(周波数0.02-0.08Hz)。2013年、2016年のイベントよりも振幅が10倍程度大きくなっている。



図3 インバージョン解析で求めた理論波形と観測波形の比較。



図4 広帯域地震計の周期20-50秒の上下動波形。横軸原点は9月3日12時30分を示す。



図5 広帯域地震計の周期0.2-0.5秒の上下動波形。横軸原点は9月3日12時30分を示す。



図6 Hi-net観測点の振幅(cm/s)。左はP波の振幅、右はT波の振幅。



図7 日本海の深度(日本海海洋気象センターより引用)。震源から東北地方にかけて深さ3000m程度の日本海盆が広がっており、T波が伝わりやすくなっている。



図8 東北地方の観測点地図と、経度の順に並べた上下動のエンベロープ波形。赤い三角印がT波の理論到達時刻(水中の速度を1.5km/sとしている)を示す。エンベロープの立ち上がり時刻はT波の理論到達時刻とほぼ一致する。また西から東に向かって振幅が小さくなる。


(文責:山田真澄、Jim Mori)

参考文献:

USGS, M 6.3 Explosion - 22km ENE of Sungjibaegam, North Korea website

IRIS, Special Event: 2017 North Korean nuclear test website

気象庁報道発表資料 北朝鮮付近を震源とする地震波の観測について (第1報, 第2報 )


謝辞:
本研究では、防災科学技術研究所の地震観測ネットワーク(Hi-net, F-net)およびIRISによって記録されたデータを利用しました。インバージョン解析には、Nakano et al. 2008, GJIの解析コードを利用しました。


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