地震波干渉法による西南日本下の地震波反射面の検出

京都大学大学院理学研究科 地球惑星科学専攻 地球物理学分野 三輪直寛

地球内部構造の研究は,震源の物理の研究とともに,地震学の大きな柱のひとつである. これまで,地球内部構造の研究は,自然地震や人工地震等の観測データを使用した地震波トモ グラフィ手法や反射法・屈折法等の物理探査的手法の利用や,これらの波形中に認められる各 種の変換波を解析してなされるのが主流であった.これらに加え,2000 年代以降,地震波干 渉法を用いた地下構造の解析手法が提唱されるようになってきた.地震波干渉法の原理は,ラ ンダムかつ等方的な波動場の中に置かれた 2 台の地震計の記録の相互相関関数は,2 台の地震 計の間のグリーン関数 (インパルス応答)を表す,というものである.近年,地動信号の雑微 動部分に地震波干渉法を適用することで,地球内部の地震波速度不連続面からの反射波を検出 する試みがなされている (たとえば,Zhan et al., 2010 や Poli et al., 2012 など).しかしながら, 日本の内陸部においてこのような取り組みは少ない.

本研究では西南日本における広帯域地震観測網 (以下,F-net) のデータに地震波干渉法を適 用し,地球内部の不連続面からの反射波の検出を試みた.この地域は,自然地震や人工地震に よる探査により,地下の速度構造がよく調べられており,先行研究との比較が容易である.ま た,将来の内陸地震の震源域となる可能性もあり,長期的な地下構造のモニタリングという観 点から,地震波干渉法によるなんらかの地下構造の把握の可能性を調査することも重要である.

解析には,F-net の近畿地方から中国・四国地方までの 21 観測点で観測された 3 成分連続記 録データを使用した.解析期間は 2010 年 1 月 1 日から 2012 年 3 月 31 日の 2 年 3 ヶ月である. radial - radial (RR),transverse - transverse (TT),vertical - vertical (ZZ),vertical - radial (ZR),radial - vertical (RZ)各成分について,観測点間距離が 500km 以下の 204 ペアに対し 0.25-1.0Hzのバンドパスフィルタをかけ,観測点間グリーン関数を計算した.

その結果,ZZ 成分からはレイリー波と S 波反射波と思われる信号を,RR 成分からはレイ リー波と P 波反射波と思われる信号を抽出することができた.また,Takagi et al. (2014)の手法 により,ZR 成分と RZ 成分の和と差を取ることで,これら実体波とレイリー波を分離するこ とができた.これらの信号を解釈するために,先行研究に基づく水平成層構造を仮定した理論 波形の計算や結果のスラントスタックを行い比較検討を行った.その結果,これらの実体波は それぞれ見かけ速度 6.46km/s で伝播する深さ 35km のモホ面からの P 波反射波,および見か け速度 3.84km/s で伝播する深さ 35km のモホ面からの S 波反射波だと示唆された