津波に起因する電磁場変動は、近年多くの報告事例があり(e.g. Toh et al., 2011; Ichihara et al., 2013) 、海底下の構造探査よりも、津波伝播特性の解明に対して応用可能性が高いことが明らかになってきた (e.g. Shimizu and Utada, 2015; Minami et al., 2015) 。実際に、 電磁場観測から地震・津波の力学特性を拘束できた研究例も近年報告されている(Ichihara et al., 2013; Kawashima and Toh, 2016)。しかしながら、従来の津波力学シミュレーションが時間領域で行われているのに対し(e.g. Maeda et al., 2011; Oishi et al., 2013) 、実地形を考慮できる津波電磁場現象のシミュレーションはMinami and Toh (2013) の例を除き、その全てが周波数領域で行われてきた (e.g. Zhang et al., 2014; Kawashima and Toh, 2016) 。周波数領域の津波電磁場シミュレーションでは、入力となる時間領域の海水速度場を、フーリエ変換により周波数領域に変換して計算を行い、さらに電磁場の元時系列データと比較するためには、 再度逆フーリエ変換を行う必要がある。これらの追加計算は、津波電磁場現象の時間発展をスナップショットとして捉えることを妨げると同時に、津波波源インバージョンなどの津波研究に電磁場観測が参加する上で、一つの障害となってきた 。  本研究では、この問題を受け、津波計算結果を直接入力として利用できる、時間領域の津波電磁場三次元シミュレーションコードを開発した。本コードでは、時間差分に二次の後退Euler法 (e.g. Um et al., 2010) を採用し、空間差分に非構造四面体要素と磁場のベクトルポテンシャルを変数として用いる辺要素法 (A法; e.g. Yoshimura and Oshiman, 2002) を採用した。 本コードでは四面体を採用することにより、海底地形の滑らかな表現に加え、観測点付近その他の領域における適切なメッシュ解像度を実現しており、計算コストの削減による広域の津波電磁場計算を可能にしている。  本研究では、開発したコードの精度を解析解との比較で確認した後、2011年東北地方太平洋沖地震津波に応用し、 震源域東縁から東に100kmほどの海底観測点(B14)と北西太平洋海盆の海底観測点(NWP)において、計算結果を磁場データと比較した。津波シミュレーションは、線形長波近似で得られた波源モデル(Satake et al., 2013)とKawashima and Toh (2016)による修正COMCOTコードを用いて、線形長波計算と線形Boussinesq計算の2計算を行った。 比較の結果、 NWP観測点では、分散を考慮したBousinessq計算がより海底電磁場データを説明した 。この結果は、NWP点において津波の分散特性が強く現れていることを示唆している。一方、B14観測点では、線形長波の津波計算がより磁場データを説明しているように見えるものの、線形長波とBoussinesq近似の両計算で、津波第一波以降の変動において約30分の間、磁場鉛直成分に数nTほどの基線のズレを生じた。この変化では、 津波起因の大気重力波が起こした電離層擾乱(e.g. Tsugawa et al., 2011) が原因である可能性があり、今後、地上磁場データとの比較を行うなど、より詳細な検討が必要である。  本発表では、新たに開発した津波電磁場シミュレーションコードについて、その手法を紹介するとともに、上で述べた2011年東北地方太平洋沖地震津波への応用結果について報告する予定である。